月夜見 “コタツのある風景” 〜大川の向こう より

*剣豪BD記念企画作品 (DLF)

川の中州の小さな村は、
大人になってみると実感したが、さして広くもないのに
微妙に傾斜があったせいかやたらと坂道が多くって。
秋から冬にかけては風が強くて、
それがまた川風なもんだから、
日を追うごとに冷たさもぐんぐんと増してって。
駆け回れば耳の先がすぐにも真っ赤になったし、
マフラーの垂らした端っこが、
はたはた たなびくのが面白いのに、
どっかに引っ掛けたらえらいことになるからと、
二重に巻くか短いのを巻くか、
端をきちんとセーターやコートの中に入れろと
大人たちはうるさくて。

 『あれだ、テレビやまんがの真似っこだろて。』
 『子供は無邪気でいいやね。』
 『何を言ってるの、引っ掛けて首が詰まったらコトだろが。』

まんがの真似なんて言われると、
子供っぽいって言われてるみたいで照れ臭くて。
でも、カッコいいの真似したら何でいかんの?
大きい姉さん兄さんたちだって、
スターやアイドルの真似をしてる。
髪のかたちや服の流行(はやり)や、
どこかがお揃いになってしまうほど真似っこしてるのに、
なんで、オレらの真似とは違うって顔してんだろね?



     ◇◇◇


中州の村の子供らは、
四年生になると大川の向こうの本校に、
渡し船で通うことになる。
年の離れた幼なじみは、
せっかく一緒に通えることになったのに、
こっちは大川を越える身になったもんだから、
そんなのズルイと随分と駄々をこねていたもんで。

 「ルフィ?」

しくだいするんだとやって来たものの、
俺のほうが用事があって。
すぐに済むからって部屋で待たせてたら、

 “…おいおい、寝てやがる。”

そんな待たせたか?
いやいや、10分と経ってねぇぞ?
中学に上がった姉のくいなが、
一人部屋になりたいと言い出して。
そのついでに新しいテーブルとやらを買ってもらったんで、
これの所有権が自動的に自分だけのもんになった小さなコタツ。
昨日出してもらったばっかのそれに、
ちょこり足を突っ込んでの布団に凭れて。
小さいのがますます丸くなって小さくなって、
無心にくーかくーかと寝てるのは、
なかなか可愛い風情だったんで。

 「……。」

なんか起こすのが忍びなくなってしまった。

 “風邪ひいちまうだろうが。”

しょうがねぇ奴だなと、
これも出してもらったばっかの綿入れはんてんを、
小さな背中を覆うように掛けてやり。
いつかは起きるだろうと、
隣りの横の辺に自分も入って待つことにする。





 「……うにゃ?」

ありー? 何か景色が違うぞー?
障子があるのがゾロんちのと一緒だ。
……じゃなくて。
そーだ、此処、ゾロんチじゃんか。
そーか、オレ昼寝しちまったんだ。
しくだい教えてもらいに来たのにな。
ゾロは…

 「あや。」

寝てるや……。
俺の真似っこだvv
うくく、目ぇ瞑っててもおっかない顔だよな。
怒ってるみたいな顔だよな。
でも、でこ広いしよ、
あ、ちょっとだけ口開いてるや。
でっかい手だなぁ…。
うや、なんか温すぎてまだ眠いぞ。
布団かぶってるみたいな気ぃする。
寝たらいかんぞ、寝たら死むぞ。
う〜〜〜っ、
…………って、あ

 「あーーーーっ!」
 「ー、なんだっ」

がばっと顔を上げたゾロと目が合った。
あーあ、起きちゃったか。でもさ、

 「ゾロっ、勝手にしくだいしたっ!」
 「あ? …ああ。だって聞きに来たんだろ?」
 「ちがうー、自分でするのー!」

俺、まだ一年なのに九九出来んだぞ。
二の段と三の段、出来んだぞ。
だから、エースにもらった三年のドリルも出来んだぞ。
それ、見してやろって思ったのに、
何で勝手にやるんだよー。

 「なんだ、そっか。」

だってお前、その“しくだい”とやら、
顔の下に敷いて寝てんだもんよ。
解けなくて寝たのかと思ったんじゃないか。

 「違げぇもん。」
 「あたっ、こら足蹴るな。」

小さい足がどんと当たって。
コタツもごそりと揺れたけど。
小さな諍いはでも、すぐに収まってしまうから不思議。
ゾロの部屋には
お爺ちゃんのお下がりだというテレビもあって。
お気に入りの時代劇の再放送があるからと、
二人並んで見始めて。
結局、しくだいとやらはしないまま、
夕飯だぞとのお迎え、
エースが来たのへ連れられて、
じゃあな明日なと帰ってく、
いつものパターンで一日が終わる。

 “…あ、落書きしやがったな。”

ノートが退いたあとの天板に、
小さく坊主頭の男の子が鉛筆で書いてあるのが見つかって。
あんにゃろめと、
消しゴム掛けかかったゾロの手が止まったのは、
よく見るとそれだけじゃあなかったから。

 『たんじょーび、おめでとー』

あ、と、声が出かかって。
ああ、そっか。
もしかしたら、九九が出来たの見せに来たのも、
お遊戯のお歌みたいな“演目”だったのかもしれない。
出来るとこ見てろよと、
そんなつもりで来たルフィだったのかもしれない。

 “そっか。そうかもな。”

つけっぱなしのテレビからは、
主人公の岡っ引きが、
十手を振りかざして悪党を叩きのめしているクライマックスで。
これが終わるまでいたら
真っ暗になっちゃう季節になったんだなぁと、
こんなことで気がついた、晩秋間近い秋の夕べだった。



   〜Fine〜  09.11.11.

  *拍手お礼に掲げた大元のお話はこっち。


  *ぎりぎりで間に合ったかな?
   実はちょみっと仕掛けのあるBD作品群にするつもりです。
   お部屋作れなかったけど、それでご勘弁を。

第二幕に続く **

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